dual pane file manager をMacで使う|二画面が効く仕事と効かない仕事
dual pane file manager を探し始める場面は、たいてい決まっている。書き出したファイルを別の階層のプロジェクトフォルダへ移したいのに、どちらも階層が深く、両方を同時に見るには窓を2つ並べて位置を調整するしかない、という場面である。この操作が1日に20回起きるなら、二画面は確実に効く。ただし二画面が短くするのは特定の1種類の作業だけで、それ以外の不満には効かない。ここでは、二画面が何を解決して何を解決しないのか、Finderでどこまで代用できるのか、そして乗り換えの成否を分けるキー割り当ての問題を順に見ていく。
二画面という形が定着した背景
二画面ファイラーの設計思想は1つの前提から来ている。ファイル操作の大半には「元」と「先」があり、その両方が常に見えているべきだ、という前提である。この形はDOS時代のファイル管理ソフトで定着し、Windowsでは「あふ」「まめFile」といった国産のソフトが同じ形を引き継いだ。日本語圏で二画面ファイラーの利用者層が厚いのは、この時期にキー操作を体で覚えた人が多いためである。
この前提から出てくる実務上の効果は3つある。
- コピーと移動がドラッグ操作でなくなる。作業中の側が「元」、反対側が「先」と決まっているので、マウスの位置に関係なくキーだけで送れる
- 2つのフォルダを並べることで、差分がスクロールだけで見える。差分ツールを起動せずに、バックアップと本体の食い違いを目で追える
- 「先」の場所を頭に置いておく必要がなくなる。片方の画面が置き場所そのものになるため、階層を思い出しながら移動する負荷が消える
3つ目は地味だが、月単位で効いてくる。1画面のファイル管理では、ファイルを移すたびに移動先のパスを短期記憶に置いたまま階層をたどることになる。1回あたりの負荷は小さいが、回数が多い作業ほど積み上がる。
逆に、二画面が効かない作業もはっきりしている。名前の変更、タグ付け、プレビュー、検索、1つのフォルダの中の片付けは、画面が2つになっても何も速くならない。日々の不満がこちらに寄っているなら、二画面は解決策ではない。
macOSに二画面が無いのは、たどり方の設計が違うから
Finderは別の前提で作られている。移動先と移動元の組ではなく、いま選んでいる1つの項目が主役だ、という前提である。Commandキー+3で開くカラム表示がその典型で、1つの列が階層の1段に対応し、右端の列が選択中の項目のプレビューになる。窓が「2つの場所」ではなく「1本の経路」を表している。
Appleは移動元と移動先の問題を別のやり方で解いている。移動先はサイドバーの項目か、タブか、デスクトップであり、そこへはドラッグで運ぶ、という設計である。タブはその公式回答に一番近い。移動先を別のタブで開いておけば、選択したファイルをタブの見出しにドラッグするだけで、そのタブのフォルダへ移動する。移動先を表示していなくても移せる。
もう1つ、知られていない操作がある。移動元でCommandキー+Cを押し、移動先でCommandキー+Optionキー+Vを押すと、コピーではなく移動になる。別々のタイミングで開いた窓の間でも成立し、両方を同時に表示しておく必要もない。この操作がほとんど知られていないのは、Optionキーを押している間しか「編集」メニューに現れないためである。
ここを踏まえると、同じ検索語で来る2つの不満が分かれる。「移動の操作がやりにくい」ならFinderの中に答えがある。「元と先を同時に見られない」なら答えは外にある。
道具を入れる前に、Finderで詰められる範囲
追加の出費なしで、二画面に求めていたものの一部は回収できる。次の3つを1週間試してから、それでも残る不満を要件にするのが順番として正しい。
タブとタブ見出しへのドラッグ
Commandキー+Tで移動先のフォルダをタブとして開き、そこまでたどってから元のタブに戻る。選択したファイルをタブ見出しに落とせば移動が成立する。実質的には「片方の画面をタブ1行に畳んだ二画面」である。移動先の中身を読む必要がある場合にだけ破綻する。
窓の左右分割
近年のmacOSは、窓を画面の端までドラッグすると自動で左右に整列する。Finderの窓を2つ並べれば、見た目の上では二画面と変わらない。違いはキーボードがその配置を知らないことで、コピーも移動もマウスを使うことになる。時間を食っているのはまさにその部分なので、見た目が同じでも作業時間は縮まない。
パスバーをドロップ先として使う
「表示」メニューからパスバーを出すと、窓の下端に階層のパンくずが並ぶ。このパンくずの各要素はドロップ先として機能するため、階層を2つ上に戻すだけの移動なら、どこにも移動せずに済む。サブフォルダから上の階層へ引き上げる操作は頻度が高く、これだけで移動先の画面が要らなくなる場面は多い。
Mac向けの二画面ファイラーは3系統に分かれる
同じ「二画面」でも、解いている問題と払う代償が系統ごとに違う。
| 系統 | 得意なこと | 代償 |
|---|---|---|
| macOSネイティブ型 | 二画面に加えてクイックルック、タグ、リモート接続が同じ窓に入る | 有料。二画面は多機能の一部にすぎない |
| クロスプラットフォーム型 | 別のOSでも同じキーと同じ挙動が使える | 見た目も作法もmacOSのものではない |
| ターミナル型 | 速度、スクリプト化、SSH越しでも同じ操作 | ドラッグもクイックルックも使えない |
ネイティブ型では、ForkLiftが自らを「macOS向けの二画面ファイル管理とファイル転送クライアント」と説明しており、SFTPやWebDAV、S3などの接続先を左右の画面と同じ窓で扱える。Path Finderは二画面表示に加えて、複数のフォルダから集めたファイルを一時的に溜めてからまとめて移す「Drop Stack」を持ち、30日間の試用期間が用意されている。MartaはSwiftで書かれた常駐の軽いアプリで、Luaでプラグインを書ける仕組みとキーボード中心の操作パネルを備える。
クロスプラットフォーム型のDouble CommanderとmuCommanderはいずれもソースが公開されており、macOS以外でも動く。macOSとLinuxを行き来する人がキー操作を1つに保てるのが利点で、代わりにMacのアプリらしい見た目と作法は手放すことになる。クイックルックやタグを日常的に使っている人ほど、この代償は導入から数日で気になり始める。逆に、Macを作業用のサーバー端末として使っていて、ローカルのファイルはほとんど触らないという使い方であれば、見た目の差はほぼ問題にならない。系統の優劣ではなく、自分がMacの標準機能をどれだけ使っているかで決まる。
ターミナル型の中心にあるのはMidnight Commanderで、Homebrewから導入できる。
Midnight Commander is a feature-rich, full-screen, text-mode application that allows you to copy, move, and delete files and entire directory trees, search for files, and execute commands in the subshell. Internal viewer, editor and diff viewer are included. 出典: midnight-commander.org
最後の「サブシェルでコマンドを実行できる」という一節が、ターミナル型に根強い利用者がいる理由をそのまま説明している。この点は後段でもう一度出てくる。
ファンクションキーとTabキーの割り当てが、移行の成否を決める
二画面の本体は見た目ではなくキー割り当てのほうである。Tabキーで作業側の画面を入れ替え、F5でコピー、F6で移動、F7でフォルダ作成、F8で削除。この配置は1980年代からほとんど変わっておらず、意味ではなく位置で覚えるため体に入るのが早い。どのOSのどの二画面ソフトでも同じ配置になっているのはそのためである。
Macで最初の週につまずくのはここである。標準設定ではファンクションキーの列が画面の明るさ、Mission Control、音量に割り当てられているので、F5を押してもアプリまで届かない。変更するのは「システム設定」の「キーボード」から「キーボードショートカット」に進み、「ファンクションキー」の項目で、F1やF2を標準のファンクションキーとして使う設定を入れる。物理的なファンクションキーの列が無いキーボードではFnキーとの同時押しになるため、片手が塞がって二画面の利点が薄れる。
Tabキーも衝突する。macOSではTabキーが操作対象の移動に割り当てられており、アプリによってはファイル一覧より先にツールバーへ移ってしまう。候補のアプリを試すときは、ファイル一覧を選んだ状態でTabキーを押し、ツールバーのボタンではなく反対側の画面が有効になるかどうかを最初に確かめるとよい。機能の比較よりキーの確認が先である。キーが半分しか届かない二画面アプリは、タブを使うFinderより遅くなる。操作のたびに「このキーは効くのか」を考える手間が乗るためである。
反対側の画面は、本当にフォルダである必要があるか
系統選びの前に、もう1つ数えておくと判断が早い。1時間のあいだに、同時に開きたかった「反対側」が、別のフォルダではなくそのフォルダを指したターミナルだった回数である。
ビルドを回す人、コマンドラインの道具で動画や画像を処理する人、rsyncで同期する人、コーディングエージェントを使う人では、この回数がフォルダ間の移動より多くなることが珍しくない。手順はいつも同じで、画面でフォルダを見つけ、パスをコピーし、ターミナルに切り替え、cdの後ろに貼り付け、実行し、戻ってきて表示を更新する。二画面はこの往復を1歩も短くしない。短くするのは別の往復で、そちらは元から詰まっていない。
判断の分かれ目はここにある。素材を別のディレクトリへ動かし、2つのツリーを見比べる作業が主なら、二画面型は正しい買い物で、投資は1週間ほどで回収できる。フォルダの表示が「シェルにどこを指すか教えるため」に存在しているなら、必要なのは反対側の画面がターミナルであること、つまりフォルダとターミナルとAIが同じ窓にある状態のほうである。
系統を決めたあとに比べるもの
系統が決まれば、その中で見るべき点は絞られる。ファイル管理の道具として何がどこまでできるのかはできることに整理されており、二画面型と同一窓型で解いている問題がどう違うのかは他のファイル管理との比較に並べてある。機能表を眺めるより、自分の作業がどちらの型に寄っているかを先に決めたほうが判断は早い。
費用の形も系統によって違う。買い切りと年額、無料版と追加パックの組み合わせなど、後から効いてくる条件があるので、料金の条件は導入前に読んでおきたい。導入後に出やすい疑問はよくある質問にまとまっている。
閲覧のされ方を見ると、二画面型を調べている人と、フォルダとターミナルの往復を調べている人では、そのあと読む記事が分かれる傾向がある。前者は無料の候補と有料の候補の比較へ進み、後者はキーボードショートカットやパスの取得方法へ進む。自分がどちらの流れに乗っているかを確かめること自体が、系統選びの手がかりになる。
よくある質問
macOSに二画面のファイル管理機能は標準で入っている?
入っていない。Finderにはタブ、カラム表示、窓の左右整列があるが、片側が移動元、もう片側が移動先という二画面の仕組みは無い。標準機能で一番近いのは、移動先を別のタブで開き、選択したファイルをタブの見出しにドラッグして移す方法である。
無料で使える二画面ファイラーはある?
ターミナルで動くMidnight CommanderはGNU General Public Licenseで公開されており、Homebrewから導入できる。画面表示のあるものではDouble CommanderとmuCommanderがソース公開で、macOS以外でも動く。基本的な二画面の操作は無料の範囲で足りる。有料版の違いはクイックルックやタグ、リモート接続がmacOSの作法どおりに扱える点にある。
F5キーやF6キーでコピーと移動ができないのはなぜ?
標準設定ではファンクションキーの列が明るさやMission Control、音量に割り当てられており、押してもアプリにF5として届かないためである。システム設定のキーボードから、キーボードショートカット、ファンクションキーと進み、標準のファンクションキーとして使う設定に変える。この変更をしないとFnキーとの同時押しになり、二画面で得られるはずの速さがほぼ相殺される。
作業のほとんどがコマンドライン中心でも二画面は役に立つ?
役に立たない場面のほうが多い。二画面が短くするのはフォルダからフォルダへの移動で、コマンドライン中心の作業で時間を食っているのは、画面で見つけたフォルダのパスをターミナルへ運ぶ往復のほうである。その往復のほうが回数が多いなら、反対側の画面をフォルダにするより、ターミナルを同じ窓に持つ道具のほうが減らせる手間は大きい。