Hazelとは|何ができて、どこで詰まるか
Hazelを一言で説明すると、macOS上で動くファイル整理の自動化アプリです。ただ、この説明だけでは「Finderのスマートフォルダと何が違うのか」も「どこまで任せられるのか」も分かりません。この種の道具には、引き受ける仕事と引き受けない仕事の境目がはっきりあります。境目を知らないまま入れると、期待していた作業が自動化されないまま設定画面だけが増えます。仕組みと、実際に手が止まる場所を順に見ていきます。
見張るフォルダとルール、その2つだけでできている
Hazelの構造は驚くほど単純です。使う側が用意するものは2つしかありません。監視対象のフォルダと、そのフォルダに適用するルールです。開発元のNoodlesoftは、ユーザガイドでこの仕組みをこう説明しています。
Hazel lets you automate the management and organization of your files and folders. You can ask Hazel to watch any number of folders, and for each one, you create one or more rules that detail what should happen to the folder's contents and under what circumstances. 出典: noodlesoft.com
ルールの中身はさらに2つに分かれます。何を探すかを決める「条件」と、見つかったときに何をするかを決める「実行内容」です。この形はAppleのメールアプリのルール設定とほぼ同じで、条件に合ったものだけが処理されます。
初期状態で登録されているフォルダはダウンロードフォルダの1つだけです。フォルダを追加しただけでは何も起こらず、ルールを書いて初めて動き始めます。公式ガイドは監視先として、ブラウザの保存先、メールの添付ファイルの保存先、共有されたクラウドのフォルダのように「放っておくとファイルが溜まる場所」を推奨しています。逆に言えば、すでに整理が終わっていて変化のない書庫フォルダを監視しても、得るものはありません。
20年続く個人開発で、いまはHazel 6
Hazelの最初の版が出たのは2006年9月です。開発元のNoodlesoftは2026年9月4日のブログで20周年を告知し、その週末に全商品を35%引きにすると案内しています。同じ記事には、割引が反映されない場合があるためアプリ内ストアではなくWebストアを使うように、という注意も書かれています。
途中で形が大きく変わった時期があります。バージョン4まで、Hazelはシステム環境設定の中に入るパネルとして提供されていました。2020年11月に出たバージョン5から、単体のアプリになっています。開発者は理由をブログにこう記しています。macOS Catalinaで環境設定パネルの扱いが壊れ、その後も改善が見られなかったため、環境設定パネルという形式は行き止まりだと判断した、という説明です。
現行のHazel 6の動作条件は、公式FAQによればmacOS 13.0(Ventura)以降です。Apple Silicon搭載のMacには全機種対応しています。ただしユーザガイドの導入手順のページには「macOS 12(Monterey)以降」と書かれていて、公式サイトの中で記述が食い違っています。古いOSのまま使い続けている場合は、この差が動かない原因になり得るため、購入前に自分の環境で試用版を動かして確かめる価値があります。
価格は買い切りで、Hazel 6が42ドル、同一世帯で5人まで使えるファミリーパックが65ドルです。旧版からの更新は種類を問わず20ドルで、月額課金の提供はありません。
条件に使えるもの、実行できること
Hazelの実力は、条件と実行内容の引き出しの多さに出ます。公式ガイドが挙げている代表例を並べると、担当できる範囲の輪郭が見えます。
| 区分 | 例 | 使いどころ |
|---|---|---|
| 名前とサイズ | 名前に特定の語を含む、サイズが100MBより大きい | 種類が混ざる保存先の仕分け |
| 日付 | 作成日が直近1週間、更新日が指定の時刻より後 | 古い書類の退避 |
| 中身の文字 | 書類の本文に特定の語を含む、または含まない | 請求書と見積書の判別 |
| メタデータ | Finderのタグ、コメントが空でない | 手作業の印を引き金にする |
| メディア情報 | 解像度、作曲者などSpotlightが持つ情報 | 写真や音源の自動振り分け |
| 件数 | サブフォルダ内の項目数が5未満 | 空に近いフォルダの片付け |
実行できる内容も同じ幅があります。移動、複製、サブフォルダへの仕分け、名前の変更、圧縮と展開、タグやコメントの書き換え、写真アプリへの取り込み、サーバへのアップロード、ショートカットやAppleScriptの呼び出しまで用意されています。条件は「すべてに一致」「いずれかに一致」「どれにも一致しない」を選べるうえ、入れ子にして複雑な判定も組めます。
つまり、判定の材料が機械的に取り出せるものであれば、たいていの仕分けは表現できます。逆に、材料が取り出せないもの、たとえば「この資料は今の案件で使うかどうか」のような判断は、条件として書けません。ここがこの道具の性格を決めています。
Hazel 6で増えたのは、読む力と戻す力
2026年時点の最新版であるHazel 6で加わった変更は、大きく2方向に分かれます。
1つ目は、読める書類が増えたことです。文字情報を持たないPDFや画像に対して、その場で文字認識をかけて中身を読めるようになりました。パスワード付きのPDFも、パスワードを渡せば読めます。渡したパスワードはキーチェーンに保存されます。スキャンした紙の請求書がそのまま条件の材料になるという意味で、紙が多い環境ほど効きます。
2つ目は、取り消せるようになったことです。Hazelが動かしたファイルをFinderで副ボタンからクリックし、Revertを選ぶと、元の位置と元の名前に戻ります。タグやコメントのような属性も戻ります。自動化の道具で怖いのは、意図しない移動が静かに大量に起きることなので、この機能の有無は運用の安心感を変えます。ただし公式ガイドは、戻したあとにルールを直さないと同じ処理がまた走る、と注意しています。
このほかに、タグのような項目の並びをまとめて扱えるカスタムリスト属性、ロックされたファイルの扱い、処理を一時停止する実行内容が加わっています。macOS 15(Sequoia)への対応もこの版で入りました。
最初に詰まるのは、サブフォルダと同期
導入した人が最初に「動かない」と感じる場所は、だいたい決まっています。
1つ目はサブフォルダです。Hazelは既定では監視フォルダの直下しか見ません。ダウンロードフォルダを監視していても、その中のフォルダに直接保存されたPDFにはルールが当たりません。中まで処理させるには「Run rules on folder contents」という実行内容を持つルールを1本追加します。条件は「フォルダであること」だけで、他のルールの適用範囲を広げる役目を持ちます。この1本を知らないと、ルールの書き方が悪いのだと考えて同じ場所を何度も直すことになります。
2つ目は同期です。HazelのSync(同期)は、前回以降に増えたものだけを複製する賢い複製として設計されています。公式ガイドは、これが一般的な同期ソフトの同期とは違うと明記しています。方向は一方通行で、複製先での変更は戻りません。削除も既定では伝わりません。監視フォルダから消したファイルは、複製先に残り続けます。条件は「存在しないこと」を判定できないためです。削除まで反映させるには、フォルダ全体の変化を見る書き方に組み替える必要があり、その場合は複製先の階層が1段深くなります。
監視して効くフォルダ、効かないフォルダ
どのフォルダを見張るかで、得られる効果はほぼ決まります。公式ガイドは、アプリごとの保存先をまとめて登録できる「App Folder」という入口を用意していて、そこに並ぶ顔ぶれが向く場所の答えになっています。
- Safariの保存先。既定は書類のダウンロードフォルダですが、設定で変更している場合はその場所が登録されます
- メールの添付ファイルの保存先。メール本文から開いた添付の複製が置かれる場所です
- Firefoxの保存先。こちらも既定はダウンロードフォルダです
- Transmissionの保存先。ここだけ注意書きが付いています
Transmissionの注意書きは、この種の自動化に共通する落とし穴を示しています。公式ガイドは、未完了のファイルの置き場所と完了後の置き場所を別のフォルダに分けるよう指示しています。分けずに運用すると、まだ書き込みが終わっていないファイルにルールが当たり、途中の状態のまま移動されたり名前が変わったりします。同じことは、クラウドの同期フォルダや、書き出しに時間のかかるアプリの出力先でも起こります。監視先を決めるときは、そこにファイルが「完成した状態で置かれるか」を先に確かめてください。
逆に向かないのは、内容が安定していて手を入れないフォルダです。過去の案件を年ごとにまとめた書庫のような場所は、そもそも新しいファイルが増えないため、ルールが動く機会がありません。監視対象に入れても設定が増えるだけで、処理は起きません。スマートフォルダも監視対象にできますが、公式ガイドは軽微な制限があると断っています。
この道具が引き受けない仕事
境目をはっきりさせておくと、導入後の落胆が減ります。Hazelが引き受けないのは次の3つです。
- 探す仕事。Hazelは決められた場所を見張って処理する道具で、記憶にないファイルを見つける役はSpotlightや検索機能側の担当です
- 分類の方針を決める仕事。どのフォルダに何を置くかは人が決めてルールに落とす必要があります。方針そのものは自動化されません
- 書いていない例外への対応。条件に書かれていない状況は素通りします。想定外のファイル名が来たとき、Hazelは黙って何もしません
この3つはHazelの欠点ではなく、設計上の割り切りです。ルールに書いた通りに、毎回同じ結果を返すことに価値がある道具なので、判断の揺れが入る余地を持たせていないと理解するのが正確です。
窓の数から見たときの位置づけ
Hazelを入れたあとに残る手間を数えると、この種の道具の位置が見えます。ルールで自動化できたのは「毎回同じ処理」の部分です。残るのは、ルールを書く前の調査と、想定外が起きたときの後始末です。どちらもファイルを見て、コマンドを打ち、内容を確かめる作業で、Finderとターミナルと調べもののウィンドウを行き来することになります。
この行き来の回数は、ルールを増やしても減りません。減るのは繰り返し作業の回数のほうです。両者は別の指標なので、分けて測ると導入判断がぶれません。1日の中でウィンドウの切り替えが何回起きているかを数え、その大半が「同じ処理の繰り返し」なら自動化の道具が効きます。大半が「毎回違う調べもの」なら、フォルダとターミナルとAIが同じ窓にある形の道具のほうが、切り替えの回数に直接効きます。
どの作業が同じ窓の中で完結するのかは、できることのページに機能単位で並んでいます。他のファイル管理の道具と並べて、どの仕事をどちらが担当するのかを見たい場合は他のファイル管理との比較が判断材料になります。導入前の疑問、たとえば対応するmacOSの版や既存の運用との共存についてはよくある質問にまとまっています。
よくある質問
Hazelは無料で使い続けられますか?
インストール直後は14日間の評価期間で、ルールの書き出し以外のすべての機能が使えます。期間が過ぎるとデモモードになり、監視できるフォルダが1つ、有効にできるルールが2つまでに制限されます。読み込みと書き出しも使えなくなります。制限付きであれば期限なく使えますが、本格的な運用には買い切りのライセンスが必要です。
Hazelを動かすにはどのmacOSが必要ですか?
公式FAQではHazel 6の動作条件をmacOS 13.0(Ventura)以降としており、Apple Silicon搭載Macにも対応しています。ただしユーザガイドの導入手順ではmacOS 12(Monterey)以降と書かれていて記述が食い違っているため、古いOSを使っている場合は購入前に試用版で確認するのが確実です。
Finderのスマートフォルダがあれば十分ではありませんか?
用途が違います。スマートフォルダは条件に合うファイルを一覧するだけで、実体は元の場所から動きません。Hazelは条件に合ったファイルを実際に移動したり名前を変えたりします。探す時間だけを減らしたいならスマートフォルダで足り、保存先を放置しても散らからない状態を作りたいならルールによる自動処理が要ります。
間違って移動されたファイルは元に戻せますか?
Hazel 6からは戻せます。対象のファイルをFinderで副ボタンからクリックしてRevertを選ぶと、元の位置と名前、タグやコメントまで復元されます。ただし戻しただけではルールは変わっていないため、同じ条件に一致すればまた処理されます。原因になったルールを先に直してから戻すのが安全です。