書類の命名規則の代わりになるもの|手放してよい機能

書類の命名規則の代わりになるものを探しているとき、頭にあるのはたいてい「名前を考える時間をなくしたい」である。タグ、全文検索、フォルダの階層、版の履歴。どれも名前の仕事の一部を引き受けられる。ただし全部を引き受けられるものは1つもない。ここでは、名前がいま何をしているのかを分解したうえで、渡せる仕事と、渡すと困る仕事を切り分ける。どこまで手放してよいかが決まれば、残った部分だけを規則にすればよくなる。

ファイル名が引き受けている仕事は、分けると6つある

「命名規則」という1つの塊に見えているものは、実際には別々の仕事の束である。分けると次の6つになる。

  • 並び順を作る(一覧に出したときの順番を決める)
  • 識別する(同じ中身か違う中身かを見分ける)
  • 探す手がかりになる(検索窓に打ち込む語を含む)
  • 分類する(どの案件か、どの種類か)
  • 状態を示す(下書きか、確定か、送付済みか)
  • 機械の入力になる(スクリプトや取り込みの仕組みが読む)

代わりになるものを探すときは、この6つを一度に置き換えようとしないほうがよい。置き換えられる度合いが仕事ごとに違うからである。たとえば分類はほぼ完全に他へ渡せるが、並び順を他へ渡すと、Finderの一覧を開くたびに毎回並べ替えの操作が必要になる。手放してよいものと、手放すと日常の操作が増えるものを、同じ議論で扱うと結論が出ない。

分類はタグと条件に渡せる。しかも将来のファイルにも効く

案件名や種類を名前に書き込むのは、分類のためである。この仕事はタグに渡せる。タグは名前を変えずに複数付けられるので、1つのファイルが2つの案件にまたがるときも、名前を長くせずに済む。

さらに強いのが、条件で作るフォルダである。

Mac上で条件を満たすファイルを追加、変更、または削除すると、スマートフォルダ内のファイルのリストが自動的にアップデートされます。 出典: support.apple.com

ここには、名前による分類との決定的な差がある。名前で分類する場合、効くのは名前を付けたその1件だけである。条件で分類する場合は、これから増えるファイルにも自動的に効く。過去1年分に手で名前を付け直すのと、条件を1つ書いて全期間に効かせるのとでは、かかる手間が違う。

分類を渡すときの見極めは1つだけである。その分類が「条件で書けるか」を先に考える。拡張子、更新日、含まれる語、置いてある場所で書ける分類は、名前に書く必要がない。人の判断でしか決まらない分類、たとえば重要度や、あとで見返す予定があるかどうかは、条件では書けないのでタグか名前に残る。

検索に渡せる書類と、名前が唯一の手がかりになる書類がある

「名前を適当に付けても検索すれば出る」という考え方は、半分は正しい。本文にテキストを持つ書類であれば、中身の語で見つかるので、名前に語を詰め込む必要はない。

問題は、本文を持たない種類がある点である。スキャンしただけのPDF、カメラで撮った書類の写真、会議の録音、図面の画像。これらは中に文字があっても、検索の対象になっていないことがある。この種類のファイルは、名前と日付とフォルダの位置だけが手がかりになる。

そこで、手持ちのファイルを2つに分けてみるとよい。本文で見つかるものと、見つからないものである。前者は名前を短くしてよい。後者は、むしろ名前を厚くする価値がある。同じフォルダに両方が混ざっているときに「命名規則をやめよう」と決めると、後者だけが行方不明になる。実際に起きるのは全滅ではなく、この偏った消え方である。

なお、名前に情報を詰め込む方向にも上限がある。手元のAPFSで確かめると、1つのファイル名に使えるのは255文字までで、それを超えると作成そのものが失敗する。日本語でも同じく文字数で数える。名前は無限の置き場ではないので、詰め込む情報は絞る必要がある。

状態を名前から外すと、参照が切れなくなる

「_確定」「_送付済」を名前に足す運用は、状態を名前で表している。これは手放す価値が大きい。理由は、状態が変わるたびにファイル名が変わるからである。

名前が変わると、そのファイルを指しているものが切れる。資料に貼ったリンク、共有した相手が持っているURL、スクリプトの中に書かれたパス。切れたことは、切れた瞬間には分からない。誰かが開こうとしたときに初めて分かる。

状態を表す方法は、名前のほかに3つある。フォルダの位置を変える、タグを付け替える、別の台帳に書く、である。フォルダの位置で表すと、一覧を見た瞬間にどの段階かが分かるうえ、ファイル名は最後まで変わらない。タグで表すと、位置も名前も変えずに済むが、一覧をぱっと見たときの分かりやすさは落ちる。台帳に書く方法は、書類そのものに触らないので最も安全だが、更新を忘れると実態とずれる。

どれを選ぶかは、そのファイルが他から参照されているかどうかで決める。参照されているものは名前を固定する。参照されていない作業中のファイルなら、名前に状態を書いても失うものは少ない。

一意性だけは、ほかに渡し先がない

同じ名前のファイルが2つあるとき、片方をもう片方の場所へ移すと、上書きするか置き換えないかを選ぶことになる。ここで判断を誤ると、中身が消える。名前が違えば、そもそもこの場面が起きない。

ダウンロードした書類の名前が、どれも「請求書.pdf」であることは珍しくない。同じフォルダに落とすと、連番が自動で足されて「請求書(1).pdf」になる。連番は衝突を避けてはいるが、どれがどれかを示していないので、あとで開いて確かめる作業が発生する。

一意性を作る材料は3つある。日付、相手や案件の名前、そして連番である。このうち日付と相手を入れておくと、連番に頼らずに済む。逆に言えば、名前から日付と相手を抜いてしまうと、一意性を保つ手段が連番しか残らない。ここは代替を探すより、名前に残しておくほうが安い部分である。

並び順を手放すと、毎回の操作が1つ増える

一覧の並びは、名前順、更新日順、種類順のどれかで見ることになる。このうち名前順は、規則がそろっていれば、そのまま時系列にも案件順にもできる。

更新日順で代用することはできる。ただし更新日は、開いて保存し直しただけでも変わる。去年の書類を今日ちょっと開いて閉じただけで、一覧の先頭に来る。これは並びの意味が変わるということで、日付を名前に入れている場合には起きない。

並び順を名前から外す場合、代わりに払うのは「毎回並べ替えを指定する」という操作である。1回の操作は小さいが、日に何十回もフォルダを開く人にとっては積み上がる。名前の先頭に日付を置くという習慣が広く残っているのは、この操作を最初の1回で済ませるためである。手放す候補の中では、優先度がいちばん低い。

フォルダの階層に渡せる分と、渡すと深くなりすぎる分

名前に書いていた情報を、フォルダの階層に移すやり方もある。「案件名_種類_日付.pdf」を、案件のフォルダの下に種類のフォルダを作り、その中に日付だけの名前で置く形である。

この方法が効くのは、分類の軸が1つに決まっているときである。案件ごとに仕事が閉じているなら、案件のフォルダが1段あるだけで、名前から案件名を外せる。

効かなくなるのは、軸が2つ以上あるときである。案件と年度と書類の種類を全部フォルダで表そうとすると、3段の階層ができ、1件の書類を置くまでにフォルダを3回開くことになる。しかも軸の優先順位を後から変えたくなったとき、階層の組み替えは全ファイルの移動になる。名前であれば語の順番を入れ替えるだけで済むところが、階層では移動になる点は押さえておきたい。

目安としては、階層に渡してよいのは1つか2つの軸までである。それ以上の軸は、名前かタグのほうが安い。階層は深くするほど、書類を置く場所に迷う時間が増える。迷った結果としてデスクトップに置かれた書類が増えるなら、その階層は現実に合っていない。

機械の外に出た瞬間に消えるものがある

ここが、代替を考えるときのいちばん重要な境界である。タグやコメントのような、名前の外側に付ける情報は、そのMacの中では確実に動く。外に出ると話が変わる。

手元で確かめた結果を挙げる。ファイルにコメントと独自の属性を付けてから、zipに固めて展開し直すと、付けていた属性は失われ、展開したあとに自動で付く別の属性が1つ残るだけだった。一方で、同じファイルをコピーコマンドで複製した場合や、ditto で複製した場合は、属性はそのまま残った。つまり、Macの中を移動するあいだは残るが、圧縮して受け渡した時点で落ちる。

同じことが、メールに添付したとき、別のOSの共有フォルダに置いたとき、クラウドのWeb画面から手元に落とし直したときにも起きる。相手の画面に届くのは、ファイル名と中身だけである。

この事実から、切り分けの基準が1つ決まる。社外に出る書類は、判別に必要な情報を名前に残す。手元で完結する書類は、名前を軽くしてタグや条件に任せてよい。両方を同じ規則で扱おうとすると、どちらかが必ず破綻する。

手放すかどうかは、3つの問いで決まる

ここまでを1つの判断に落とすと、確かめる点は3つになる。

  • そのファイルは、この機械の外に出るか。出るなら、名前に情報を残す
  • その情報を、機械が読むか。スクリプトや取り込みの仕組みが読むなら、名前か決まった場所に置く
  • 過去のファイルにも遡って効かせたいか。遡るなら、名前ではなく条件で書く

3つとも「いいえ」であれば、その情報は名前から外してよい。逆に1つでも「はい」があれば、名前に残す理由がある。この問いの良いところは、ファイルの種類ごとに答えが変わる点である。社内の作業メモと、取引先に送る見積書に、同じ規則を当てる必要はない。

手放したあと、規則の分量はかなり減る。残るのはたいてい、日付と、相手か案件の名前と、書類の種類の3つだけである。この3つなら、保存するときに考える時間はほとんどかからない。代わりになるものを探していた目的は、ここで達成される。

名前から外した情報は、別の場所を見に行くことになる

分類をタグに、検索を全文検索に、状態をフォルダに渡すと、名前は軽くなる。その代わり、確かめたいときに見る場所が増える。名前を見れば分かっていたことが、タグの一覧を開き、検索窓に打ち、条件のフォルダを確認する、という3つの動作に分かれる。

ここで効いてくるのが、それらを1つの画面で見られるかどうかである。フォルダとターミナルとAIが同じ窓にある構成なら、一覧を見ながらその場で条件を書き、結果をそのまま確かめられる。どの操作が標準で用意されているかは道具によって差があるので、できることで扱える範囲を先に確かめておくと、名前から何を外せるかの見当が付く。内蔵の検索や一括処理がどこまでかは製品ごとに違うため、他のファイル管理との比較で持っている機能を並べて見るのが早い。

名前を軽くするほど、手元を離れたときの手がかりが減る点にも触れておきたい。外出先で受け取った書類を、その場でどこまで判別できるかは、名前に何を残したかで決まる。別の端末から続きを扱う前提があるなら、iPhone・iPadから続きをの考え方も合わせて見ておくとよい。日本語のタグや条件が扱えるかは対応言語に、導入にかかる費用は料金に、移行時に多い引っかかりはよくある質問にまとまっている。名前を手放す判断は、その情報がどこへ行くのかを決めてから下すほうが、あとで戻す作業が起きない。

よくある質問

タグを使えば、ファイル名はもう考えなくてよくなりますか?

分類の部分は渡せますが、並び順と一意性は残ります。タグは同じ名前のファイルが2つ並んだときの見分けには使えず、一覧の並び順も変えません。名前から案件名や種類を外し、日付と相手だけを残す形にすると、考える時間はほぼなくなります。

タグやコメントは、相手に送っても残りますか?

残りません。手元で確かめたところ、ファイルに付けた属性はzipに固めて展開し直した時点で失われ、コピーコマンドでの複製では残りました。メールの添付や別のOSへの受け渡しでも同じことが起きるため、社外に出す書類は判別に必要な情報をファイル名に残してください。

全文検索があれば、スキャンしたPDFも見つかりますか?

文字として読み取られている場合は見つかりますが、画像として取り込んだだけのPDFは本文を持たないため、名前と日付と置き場所が手がかりになります。スキャンした書類は、ほかの書類より名前を厚くしておくほうが安全です。

名前に状態を書くのをやめる場合、何で代わりにすればよいですか?

フォルダの位置、タグ、別の台帳の3つがあります。他の資料やリンクから参照されているファイルは、名前を変えると参照が切れるため、フォルダの位置かタグで表してください。参照されていない作業中のファイルであれば、名前に状態を書いたままでも困りません。

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